パンフレットを読む 「普通の国になりましょう」 ダグラス・ラミス

 『普通の国になりましょう』 ダグラス・ラミス 大月書店

四月の新刊書だ。僕はある時期からむずかしい本が読みづらくなって、それ以来、良質のパンフレットに興味を持つようになった。
パンフレットの大事な点。文章が読みやすく、長くない。明確なストーリー、つながりがあって、一貫している。そのことについて特権的な知識や思考方法を前提しない。普通の人を読者としている。きちんとした実証や論理を背景としていて、さらに深めたい人に進んで行く行き方を提供している。
この本はそういう意味では模範的なパンフレットだと思う。

ラミスさんは、ここで、日本を普通の国にすべきだ、それには、今の憲法は変えなければならないという主張を吟味している。その方法は、「日本を普通の国にすべきだ」という主張が前提としている「普通」という言葉がどういう意味なのかをきちんと考えるという仕方だ。だれかが「日本をぶとぼぼの国にすべきだ」なんて言っても、だれもちゃんとした意味があるとは思わないだろう。だが、「日本を普通の国にすべきだ」というと何か言っているように聞こえる。だったら、普通ということはきちんとした意味があるはずだ。
目次から取り出すと、
  普通って「平均」のこと?
  普通って「あるべき姿」のこと?
  普通って「アメリカ」のこと?
  普通って「正常」のこと?
  普通って「常識」のこと?
と言った具合に一つ一つ順に考えて行く。いずれにしても、この主張をするのであれば、何かの答えをとらないわけにはいかないだろう。その考察は、実際に読んでもらう以外にはないけれど、ラミスさんは彼なりの答えを出している。

僕は、彼の考えに共感したけれど、いくつかのことを言われて驚いた。
・世界には軍隊をもたない国は今現在25カ国ある。
・戦争をしている国は、その間、必ず国内の殺人犯罪率は上昇する。(アメリカなどのデータあり)
アメリカ陸軍の調査によると、兵隊が60日つづけて前線にいると、戦場神経症になる割合は98%、残りの2%はすでに神経症だった人だとのこと。戦場では神経症になるのが「普通」なのか。
・20世紀の間、軍隊が殺した一番多い相手は、敵国の兵士ではなく、自国の市民だった。(内戦とか鎮圧とか)軍とは何のためにあるものなのか。

この本はおすすめだ。ネットウヨクの人も、頭がよくなることはうけあいだし、自分の意見が明瞭になる、頭をつかえるから、読んだ方がいい。ラミスさんの最後に出した答えに賛成できるかどうかは自分で判断すればいいのだから。

この本をよんでいて、ギリシャソクラテスという変な哲学者のことを思い出した。町かどに立って、若者に、正義とは何か、善とは何か、勇気とは何か、愛国心とは何か、質問して回ったおじいさんだ。

それから、アーネスト・サトウのことも思った。サトウは、幕末のイギリス人通訳で外国人なのだが、日本の変革にいたく関わった人物だ。彼やグラバーなんて人がいなかったら、明治政府は多分なかった。もっとも、明治政府は外国人と薩長勢力のつながりを秘密にしたかったので、隠してきた。明治維新政府の本質をイギリスの属国と見なす考えもあり、そうした人にいわせると、彼らはイギリス帝国主義の尖兵(フリーメーソンという闇の支配者と解釈されたりもする)で日本のっとりの仕掛け人ということになるわけだが、他国の社会変革に義を感じて、深くかかわった侠気の人という感じも否定できない。
ラミスさんは日本に来て、日本に住みつき、日本国憲法の第九条の世界的な意義を日本人にいち早く説いた人で、日本人以上に九条を世界遺産に、の人である。