天木直人「アメリカの不正義 レバノンから見たアラブの苦悩」

天木直人アメリカの不正義 レバノンから見たアラブの苦悩」(展望社)

この本は、「さらば外務省」よりも後に出版されたものだが、天木氏がレバノン大使時代に日々書かれて中東調査会ホームページに載せていた文章と非掲載稿からなる。だから、時期的には、外務省との決別より前の文章になる。(今も、中東調査会のページに天木さんの文章はのっている。http://www.meij.or.jp/information/Stories/stories.htm#topこの本に全て収録されているわけではない。)
バレスチナでもイラクでもなく、小国でシリアという大国の政治的意向に逆らえない、サウジアラビアやクエートからの援助に頼っている石油資源のない、たくさんのバレスチナ難民をかかえこんでいる国レバノンで日本との友好をつくりだそうとして行動している天木さんの姿が眼に浮かんでくる。
それだけに、長いあいだかかって築かれてきた中東における日本への信頼を、すっかり壊してしまうことになった小泉政権アメリカによるイラク侵略の支持に対しては憤懣やるかたなかったことはよくわかる。

レバノンの人には、「あなたはレバノンを好きになってくれた。日頃の言動からよくわかります。ですから私達はあなたが好きなのです。」「今まで日本大使館の存在は知らなかったが、お前になってはじめて日本という国の存在が見えた。」と言われたという。

「さらば外務省」にものっていた天木さんが送った二回のイラク戦争反対の意見具申電報に加えてこの本には大使離任に際しての本使帰朝報告なる電報も要旨掲載されている。天木さんは、尊敬する友人の国連代表のデミストラ氏に「私は今でもあの戦争はまちがっていると思っている。外務省を離れた後は私が勇退することになった経緯を明らかにし平和を望む人たちと政府批判をしていこうと覚悟を決めた」と打ち明けたそうだ。そうか、やめる時から決めていたのか。