福島第1原発1号機 「水棺」作業に着手 実証データなし、手探りの挑戦

産経新聞 4月28日(木)7時56分配信
 高温状態にある原子炉を格納容器の上部まで水で満たして冷却する「水棺」作業。原子炉の安定化に向け期待される一方、余震に対する耐震性や冷却効果をめぐり、専門家の間でも「汚染水を増やすだけ」などと疑問視する声が出ている。東電は「余震に対する耐震性などを確認しながら取り組みたい」としているが、実証データはなく、手探りの試みとなりそうだ。

 ◆専門家も評価二分

 「水棺は冷却には有効な手法だ」。こう評価するのは、京都大学原子炉実験所の宇根崎博信教授(原子力工学)。「格納容器内にある圧力容器や配管系の損傷部分からの汚染水の漏れも、水で防ぐ利点もある」と強調する。大阪大学の宮崎慶次名誉教授(原子炉工学)も「圧力容器の底が冷やせるので、燃料が溶けて圧力容器の底が抜けるのを防ぐ効果がある」という。

 一方、日本原子力技術協会最高顧問の石川迪夫(みちお)氏は「水棺はただちに中止すべきだ」と語気を強める。石川氏は期待される冷却効果についても「気休め程度にすぎない」と疑問を呈した上で、「水棺で高レベルの汚染水がさらに増える危険がある」と指摘する。

 冷却効果については、石川氏だけでなく、東芝の技術者として福島第1原発3号機の設計に携わった経験がある日本システム安全研究所の吉岡律夫代表も「圧力容器内の温度は150度前後とみられ、水棺の水温も100度以上になるため温度差が小さく、冷却効果はまったくない」と断言する。

 効果を認める宮崎名誉教授も「燃料の全部が溶融して圧力容器の底にたまるような深刻な状況ではないと思われるので、圧力容器内への直接注入で十分だったのではないか」と、現状での水棺作業には懐疑的な見方を示す。

 ◆余震、水圧 不安材料

 東電が「冷やすための一番の近道」と踏み切った水棺は、米国で冷却水を喪失した原子力事故を収束させる手段として研究されてきた。ただ、実施例はなく、前代未聞の“実験”的要素を帯びた作業となる。

 しかも、水棺は格納容器に損傷がなく、注入した水が漏れ出ないことが前提となっているため、水素爆発で建屋が大破した1号機での実施には、安全性を疑問視する専門家もいる。

 日本システム安全研究所の吉岡代表は、格納容器内に大量の水を入れることで、「強い余震に耐えられるかという問題に加え、3千トンもの水の水圧が加わり、格納容器や配管などが破損する可能性がある」と危機感を募らす。

 ◆水漏れの危険性も

 東電は1号機を遠隔操作ロボットで調査し、目立った水漏れなどがなかったことを確認できたことから水棺作業に乗り出した。ただ、水漏れの懸念が完全に払拭されたわけではなく、東電も「見た範囲で漏洩(ろうえい)がなかったということであって、まだ水漏れがあるのかないのか正確にはつかめていない」という。

 また、地震や水素爆発で構造物の耐震性や耐久性が損なわれている可能性もある。水を満たした際の耐久性の評価が十分に得られていない中での実施には、経済産業省原子力安全・保安院は「ほぼ大丈夫だという感触は持っているが、確認したい」。東電も「今回は試験。格納容器に水を入れても耐えうる構造だが、劣化を含めて再評価する」と、手探り状態が続くことを示唆する。本格的な作業に入れば、既存の配管に冷却器を取り付け、格納容器に冷却水を循環させる方針という。だが宮崎名誉教授は「燃料が出す熱で水温が上昇し、格納容器内の圧力が高まって容器が破損する可能性もある」と懸念するなど、不安材料はつきない。