田中ユタカ氏の新作マンガ

講談社刊「アフタヌーン」最新号に田中ユタカ氏の読み切りがのっている。
「愛人(アイレン)」という長編作品の作者であるが、彼の作品は今の日本にとって極めて価値あるものである。

それはこの読み切り「ミミア姫」中でも、次のような言葉に集約されている。

ミミア「おばあさん…死んじゃったんだね…」
少年「ああ、大往生さ。うれしくても、悲しくても、人生は最後にちゃんとこうして死んで終わるんだって、心配はいらないって、子供たちに見せてやることが、年寄りの最後の仕事だって、口くせだったから…」

死の教育の必要性が言われていたりするが、そのポイントはこういう事にあると思う。

死は、僕たち唯物論者にとっては、世界に生起する当たり前の出来事である。社会惡である戦争とか、抑圧とかによる死、あるいは不条理としか言い得ない死は、もちろんとりかえすことのできないことであるけれど、死を含んで世界は存在している。
死を含んだ生が生きるに値するものであること、ちゃんとした死は可能なのだということを知らせること、それが眼目なのだ。ちゃんとした死がありうるということは、戦争、階級抑圧による不条理な死が憎むべきものであることを証明する。

とりわけ、オレは絶対死ぬわけがないんだといったふうに聞こえる、様々な言説が今の日本を押さえ込んでいる状況のもとでは、それとちがう前提を生きる彼の作品は貴重だと思う。