わたってはならない川

 菅井は、キリスト教などにある終末思想とか、は好きではない。だから、これも別に予言ではない。だが、日本国家はついに、わたってはいけない、川をわたってしまった。
 日本政府は60年間ずっと平和主義外交をサボタージュしてきたが、現在進行中の朝鮮に対する「積極的な」先頭に立った制裁外交は、まったくそれに反する好戦外交である。アメリカの虎の威を借る日本国家が、「積極的」外交を行うとしたら、他の選択枝はなかったのはわかりきっていたことだ。この戦争推進国家日本が、日本国憲法のような平和主義を掲げた最高規範をもつことは、欺瞞以外の何者でもないのであり、おのが身にふさわしいものに早晩とりかえざるを得ないことは必至である。
 主としてアメリカに向けられたメッセージであることが明らかな朝鮮のミサイル実験(アメリカ独立記念日にそれは行われている)に、日本国が自分たちのことだと過剰反応しているのも笑止であるが、マスコミは朝日系に至るまで、大騒ぎで、冷静な事実報道や分析さえしない。
 第二次世界戦争前のメディア操作とうりふたつである。自民党は小泉の人気凋落をいっきに挽回する策とみて狂喜しているだろう。

 まず、今度のことは、日本が断固とした外交姿勢をうちだすなら、国連にもはっきりした影響を与えられるということを示すだろう。(これは菅井も求めていたことである。だが、それは、本当にはアメリカの軍事強圧外交とたもとをわかつことなしには不可能なのである)日米好戦同盟外交の方向を止める物的力は、当面、中国、ロシアの拒否権以外に客観的に存在しない。拒否権行使があっても、国連の軍事的制裁決議は止めてほしいと考えるが、予断はゆるさない。

 わずか、1日の内に、日本の強行姿勢は国連各国に伝わり、「イラク戦争前夜」以来の緊張が広がったと、報じられていた。
 これは比喩ではない。厳密にイラク侵略前の時と同じである。この決議の帰結は、必ず、国連の権威?による武力制裁であり、つまりは、イラク侵略と同様に、朝鮮侵略である。しかも、今度は、アメリカではなく、日本が主導している。
 朝鮮の決定や運命がどうなるか、わからないけれど、この日本外交の「勝利」は、日本の危機の始まりとなるだろう。アメリカのイラク侵略、占拠は、今やアメリカに重大なる負担となっている。アメリカの世界における権威も地に落ちてしまった。だが、朝鮮なら、これは日本のことになる。
 韓国の太陽外交や中国の方針の背後には、経済的にきびしい朝鮮の崩壊が、自分たちの経済に負担となってはねかえってくることはまちがいないと見て、なんとか、朝鮮に自活の道をたどってほしいとの物質的打算・リアリズムがあることはまちがいない。中国にとっては、朝鮮は数千年にわたる保護国、友好国であるし、韓国にとっては、同じ民族として朝鮮は外国ではないこともあるが。
 日本がこれからまちがいなく踏むことになる地雷は、日本経済も直撃する。当初、日本は不安をおさえるために、朝鮮には鉱物資源がある、とか、経済効果とか言い出すだろう。
 だが、戦争、占領、援助等の費用は、日本が大半、出さざるを得なくなるだろう。遠いイラクの場合とちがって、まちがいなく人員もださねばならない。そして、当事者、自尊心をもつ朝鮮民族はどうするだろうか。
 それらの重い負担のことを考えず外交勝利に浮かれている日本の支配層が、そしてその負担を転嫁される諸民がそれに耐えうるかどうかは神のみぞ知る(=誰も知らない)である。