遠い記憶

 中学生の頃、学校の図書館に入っていた雑誌で、愛読していたものがある。「抒情文芸」
という名の月刊誌で、大昔のSFマガジンのような、というか、昔のぴあのようなというか、ホチキスとじで、背表紙のない表表紙と裏表紙だけのような雑誌だった。独特の雰囲気をもっていて、ボクはそれに耽溺した。センチメンタリズムとでもいおうか。ボクにとって、抒情的とは、畢竟この雑誌の世界にすぎないと思うことがある。その頃、多くの本を読んだが、その雑誌のすがたや、手触りや、感じがありありと思い出されるのは、この雑誌だけである。具体的な文章や作家名は一つも思い出せないのに。
 後に同名の雑誌をみつけたが、ボクには別もののように感じられた。今もその同名雑誌は出されており、どうやら、関係がないどころではなく、後継雑誌であるようだ。
 不思議なことは、ネットを検索しても、国会図書館とかでひいてみても、ボクがよんでいたその古い方の「抒情文芸」が見当たらないことだ。こんな本が、というような本がネットで調べると情報が得られることがよくあるのに、なぜあの雑誌は出てこないのか、まことに不思議である。