現代史と経済

  河出書房新社の「世界の歴史」は、第1巻「人類の誕生」(今西錦司)、第22巻「ロシアの革命」(松田道夫)など、今も読まれる優れた内容をもつシリーズでした。
 その最終巻が、桑原武夫編の「戦後の世界」で、1969年初版、のちに文庫本にもなっています。この本は今から37年前、そして1945年の日本の未曾有の敗戦からは24年の後に出されたものです。
 河出版「世界の歴史」は、歴史シリーズでありながら、当時では考えられないことでしたが、歴史学者だけではなく、もっと広い範囲の学者たちによって書かれており、多くの大胆な視点が提起されていました。この24巻「戦後の歴史」も桑原武夫がメインとなり、河野健二、上山春平、梅棹忠夫、橋本峰雄を加えた五人が協力して編んだもので、13人の著者の文章とシンポジウムから成っています。そして、歴史的にではなく、テーマ別の構成になっています。


 その冒頭章「現代史と経済」の河野健二が書いた文章を引用してみます。


 《第三次部門の拡大は、資本の寄生性と投機性をいっそう際立たせる。時流に投じた大ブームが生まれるかと思うと、大資本が一夜にしてあとかたもなく消えることもあり、また、学校、病院、施設など、資本主義的経営に適さない事業も拡大する。「情報産業」を待つものは、大きな変動や浮沈であろう。
 第三次産業の拡大は、本来の産業労働者とならぶサラリーマンの大群をつくりだすこととなる。肉体労働の比重は工業生産においても減少し、知的・精神的労働者が増加するが、かれらが依然として「賃労働制」の下におかれる点では変化はない。労働者の要求は、賃金や労働時間の短縮などから、しだいに高度なものとなり、経営権や管理権にたいする要求になっていくだろう。それは単純な「参加」から、「拒否的参加」になり、「自己管理」にまで高まるであろう。・・・(中略)・・・
 さらにまた・・・(中略)・・・企業的利害と公共の利害との対立が広く住民の立場から明瞭に意識されることも現代の特徴である。戦争や戦争の準備の反社会性もまた、これまでになく強く意識され、さまざまな反対行動が組織される。これらが社会体制そのもののありかたを根本的に変革することとつながるまでには、なお若干の距離があるし、またその変革は、必ずしもこれまでの社会主義革命の繰り返しに終わるものではありえないにしても、やはりそれは「社会主義」の名によってよばれるだろう。》
          (河野健二担当「現代史と経済」 河出文庫版27-28pp)


 この本が書かれた時期(60年代末)の学生運動などの動きが自主管理のさきがけになるという展望は当たらなかったですし、マスメディアなどがイデオロギーの刷り込みを行う強力な手段になってしまうことは予想していませんが、ほぼそのまま、今日でも、というか、今日ますます当てはまっています。