原点に向かう・ 映画「テロリスト(幽閉者)」足立正生作品を見る

 足立正生監督の「テロリスト(幽閉者)」という映画を渋谷ユーロスペースで見た。
 アラブ赤軍のリッダ作戦のメンバーの一人であり、生き残ってイスラエルに捕虜となり、捕虜交換で出獄、現在アラブに住む岡本公三をモデルにした創作だが、足立氏の私小説という面が強いのではないかとも感じた。敗北と幽閉の中の反逆というテーマは高取英の逆史劇にも繰り返されるテーマだが、足立正生氏の場合、映像であり、田口トモロヲという名優を得て、より肉体的な表現になっている。徹底的な当人の主観の側からの叙述となっていて、私小説と感じた理由でもある。そして、敗北を強い、状況を支配している体制は存在していることは強烈に印象づけられるが、認識の対象としては出てこない。全体が悪夢的状況にあり、解放されたと思ったら罠であり、夢であり、と逆転する。ラスト近くの若い解放兵士たちが次々と武装し、おりから脱走してくるシーンとそのあとに続く広がって行くPANTAの朗読も、悪夢的状況を払いのけてしまっているのではない。幽閉と抵抗はなお悪夢のように続くのである。
 足立氏は、アラブ赤軍に身を投じた国際義勇兵という、日本人としては希有な体験をもつ映画監督である。30年の時間を経て、再び、映画という武器を手にして立った。
 当時の時代を牽引した松田政男若松孝二大久保鷹平岡正明PANTAなどたくさんの人が出ているが、それがこの映画に、絵空事とはちがう、過去のの生き方に責任を負う重さを与えているように感じる。幽閉の中の拷問と薬物や水責めによる精神攻撃シーン(田口トモロヲの怪演)が続く中で、それらの登場シーンはむしろ軽やかであるのだが。
 これはもちろん、一つの比喩である。足立氏のまなざしを生み出しているものと、日本メディアの提供支配している見方とが、いずれが正しいか、それを決めるのはこれからなのである。

 30年以前の若松プロ足立正生脚本、監督映画を知っているものは、足立氏の映像の、凛とした、端正な緊張感を今体験できることに、密やかな悦びも感じるだろう。初めて見る若い人たちがどう感じるかは・・・、興味のあるところだ。
次回作、「13月」は、何がなんでも撮っていただきたいと思う。