靖国神社は宗教施設ではない

 靖国神社への戦犯合祀について、国の意志によってなされたことを示す証拠となる文書が公表された。靖国神社は、自らを大日本帝国(軍)の国家機関ではなく、一宗教団体であるとの見解を押し立てて、そのアジア・太平洋戦争に対する独自の軍国主義的見方や靖国に合祀されている一部の戦争犠牲者の分祀要求やA級戦犯分祀要求の拒絶を正当化してきたことはよく知られている。
 しかし、戦後のA級、ならびにBC級戦犯の合祀は、国側からのリスト提示など、国の指示によって行われたものであり、本当は宗教ではなく、政治の事項であったと見られて来た。だが、それをはっきり示す具体的な書類が公表されず、確かめることができなかったのである。それをいいことに、戦犯合祀は靖国神社の宗教的私事であるとの強弁がまかりとおってきた。
 今回の文書公表は、直接にはBC級についてのもののようだが、そのようなごまかしをはっきりと否定するものである。靖国神社が戦後において、一時期、平和主義へと脱皮しようとする努力がなかったわけではないけれど、この戦犯合祀のプロセスは、靖国大日本帝国軍国主義の国家追悼施設以外の何者でもないことを物語っている。
 
 読売新聞は、この文書公表を報じて、改めて、A級戦犯をふくまない、国家の平和追悼の祈念施設を設置すべきだとの社説をのせているが、いずれにしろ、靖国神社を、宗教団体としてみる見解は正しくない。軍国主義日本の象徴としての旧・国家施設の残存物、それが靖国神社、現在の靖国であるということである。それをどう考えるかは、各人の立場によって分かれるであろう。が、すべての議論はこの明白な事実から出発しなければならない。