日本政府のクラスター爆弾禁止条約賛成方針は欺瞞である

きのうのサンケイ新聞(朝刊だが、サンケイには夕刊はないから「きのう」)に

《政府がクラスター爆弾禁止条約に賛成表明に》

と一面トップで書いてあった。コンビニ売りの新聞などめったに買わない、おまけにサンケイであるし、だが、回収ぎりぎりで買った。。
よく読まねばと思ったのだ。

 見出しを観て、よいことだ、劣化ウラン弾の禁止もがんばってほしい。そうであって、はじめて平和憲法をもつ日本国の外交だ、と思いたい自分がいた。それならそれでいい。支持率真っ逆さまの安倍政府は、今人気とりにやっきである。いいことを本当にするかもしれない。名作であり怪作である、世界に二つとない戦争と原爆の悲惨と戦い生きつづける少年のマンガ「はだしのゲン」を世界に普及しようという決定をしている日本国官庁の例もある。よいことはどしどしやってほしい。


以下、記事から。

《1発の爆弾から多数の子爆弾を飛び散らせるクラスター爆弾の使用禁止条約を制定する動きが国際社会で強まる中、政府が、19日からジュネーブで開かれる特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)政府専門家会合で、制定に賛成の立場を表明することが、9日分かった。》

なるほど、よいことである。次を読む。

《政府は禁止条約への態度表明を控えていたが、制定過程に積極的にかかわることで、即時全廃を唱えるノルウェー、ペルーなどを牽制(けんせい)。同時に米国、中国、ロシアといった生産・保有大国を巻き込む考えだ。》


ちょっと待って。日本は即時全廃反対なのか? クラスター爆弾をなくしたいからではなくて、作って売ってもうけたい、使い続けたいアメリカらも入れるような条約にするように、積極的にかかわるということではないか。


《外務・防衛両省による調整の結果、(1)CCW専門家会合や今年11月のCCW締約国会議に「基本的に賛成」の立場で臨む(2)「即時全廃ではなく代替兵器の開発まで十分な移行期間を設ける」「大量保有する米中露の参加も得て条約の実効性を確保する」といった日本の考えを条約に反映させる−などの戦略をまとめた。》

「即時全廃ではなく代替兵器の開発まで十分な移行期間を設ける」ということは、別の非人道兵器ができるまでは、クラスター爆弾を禁止しない、という方針だということである。これではどうころんでも、非人道兵器はなくならない。
 確かに、軍事産業に支配された国家の理解をえられる方針だ。


 だが、これをクラスター爆弾禁止に賛成と呼ぶのは欺瞞である。クラスター爆弾を使い続けたいアメリカが今のままでも入れるような条約は、どんな名称をつけようと、クラスター爆弾「禁止」条約になるはずがない。なっても、せいぜいクラスター爆弾「拡散禁止条約」か、「部分的クラスター爆弾使用禁止」条約にしかならないだろう。それが禁止や廃止からいかに遠いかということ、核兵器の廃止運動の歴史が示している。

 今回発表された日本政府の「クラスター爆弾禁止条約」への賛成表明なるものは、禁止条約骨抜き方針であり、クラスター爆弾に対する世界世論の怒りが広がるなかで、アメリカらが使いつづけられるように瞞着するものである。

 それどころか、日本も使えるようにするためなのである。自国内で使用するというのだ。

 《久間章生防衛相は「攻撃用にクラスター爆弾を使うことは100%ない」と語っている。ただ、日本政府は、敵の侵攻を「面」で食い止めるクラスター爆弾を、海岸線が長く、離島の多い日本にとって敵の上陸を食い止める防御手段として不可欠との立場だ。
 それでも政府が条約締結交渉に前向きにかかわろうとしているのは、平成9年、橋本内閣時代に小渕恵三外相(当時)の政治判断で対人地雷の全廃を決めた事態の再来を懸念しているからだ。
 政府は当初、米中露不参加の対人地雷全面禁止条約の実効性は疑問として消極的だった。それが政治決断で条約に参加することになり、その結果、「北朝鮮、韓国を含めた周辺国すべてが廃止しない中で、日本だけが敵の上陸を食い止める能力を著しく減少させた」(陸自幹部)という。》


 要するに、ポイントは、賛成にあるのではない。ただ賛成した対人地雷条約の時のようにならないように、米日が当分使いつづけられるような条約にするように積極的に内容に関わるということなのだ。
ちなみに、禁止に興味のないアメリカは全然参加も、オブザーバーをおくってもいない。中国もだ。

 このやり方はイラク戦争の時の国連における日本の態度を思い出させられる。あの時も日本は、アメリカがそのままでも賛成できるような(イラクへの武力行使に含みを持った)案を通すことに全力をつくしたのだ。表向きは、軍事力によらない決議案の成立のために全力をつくしたようにみせて。実際、国連であの決議案が通らなかったら、アメリカはイラク侵略を断念するか、国際世論に逆らって一国のみで行うか、になっただろう。日英も、あからさまな出兵等の軍事協力はできなかっただろう。侵略自体は国連軍の名のもとで行われはしなかったが、おすみつきをアメリカにやったようなものだった。

 こうしたやり方、正しい国際条約ないしは決議ができようとするとき、その成立に賛成すると主張しながら、その実、条約決議に反対のアメリカも入れるように、その中身を骨抜きするために関わり、日本が努力して条約がまとまりました、と宣伝するのは、対米奴隷国家日本のパターンなのである。
 今のまま、今の方針のままでのアメリカに受け入れられるように、世界の政治プロセスのまともな進化をじゃましているのが、日本外交の客観的な姿なのである。


 たしかに、アメリカのボチである。
 たしかに、日本国憲法の平和主義とは正反対の外交である。
 たしかに、この政府が平和憲法を変えてしまいたくなるのも当然だ。


 だが、こうした欺瞞的手法は、日本国民をバカにしていないだろうか。こうした賛成ともいえないような賛成を、「クラスター爆弾禁止に賛成」、と宣伝する。内容をしりながら、見出しには「賛成」しかのせないサンケイの姿勢は欺瞞である。ネット右翼も怒るだろう。なんで、平和主義世論に迎合するのだ、と。

 100円出して、サンケイを買わなかったら、見出しではなく中味をきちんと読まなかったなら、「不人気な安倍内閣だから、人気とりに少しはよいこともするかもしれない」、と菅井も思ったままだろう。同じ100円出すなら、天木さんに払いたい。新聞なら、せめて東京新聞にしたい。



 朝、天木直人の「日本の動きを伝えたい」、鈴木邦夫の「今週の主張」、森田実の「言わねばならぬ」をいつものように読む。

 天木さんは、イラク自衛隊派遣違憲訴訟を始められた故・箕輪氏を訪ねられている。(箕輪さんについては、喜八ログ4月30日に「「護憲タカ」箕輪登http://kihachin.net/klog/archives/2007/04/minowanoboru.htmlという紹介がある。)

 鈴木邦夫氏は、たくさんの映画を紹介してくれている。巨大メディアの押し付けてくる映画に辟易して、観たいという気持ちさえ失っていた菅井にも、映画を観たいという気持ちを呼び覚ましてくれた。先週鈴木さんの日録欄で試写を見たという映画は、やはり、「TOKKO特攻」だった。今週は詳しく紹介している。
森田氏は、農業について書いている。紹介されている鈴木宣弘氏の主張は正しく、そして懐かしい。