田中ユタカ「ミミア姫」

世の中は大きく動いているが、日常に追われて僕らはまだそのことをリアルには受け止められないでいる。


田中ユタカさんのアフタヌーン連載「ミミア姫」が最終回を迎えた。
あとに多くの謎が残った。
最終回で、ミミアはいったいどうなったのだろうか。どこへ行ったのだろうか。
読み切りのミミアは、大きな木を上って旅に出た。
でも、本編のミミア姫は、最終回において、家族と楽しい食事をしたのち、別れをする。
そして、ミミアたちの住んでいた世界とは時間の流れのちがう世界に行ってしまう。そこからみると、地上の出来事はたちまち過ぎて行くのだ。


そこで、悪を身に受け入れて消滅してしまった勇者や生き残った小鬼と再会し、彼女は旅をはじめる。


あの、大災害をもたらした戦いの謎も解かれずにしまった・・・と思う。


だが、変わったことは確かだ。


世界はまえのように予言可能なものではなくなり、ミミアたちの一族は天使のような無垢の存在ではなく、むしろ人殺しの罪にまみれた存在と自分たちをとらえ直すようになる。祈りは前からあったが、祈りの中身と質は変わった。
災厄のあと、一時は人々の記憶から消えようとしたミミアだったが、それは防がれ、彼女を忘れないための祭りが毎年つづくようになった。


そして、ミミアはもっと長い歴史を俯瞰する別の世界で旅をし、
そして、やがて、彼女と同じように一人で旅する他の人と出会うだろうと、予言があって幕となった。


ミミア姫は、大長編になると思っていたのだが、その点では予想は外れた。巻数にしても、たぶん「愛人」より長くないし、ストーリーの展開もそれほど沢山の出来事があったともいえないと思う。


大河小説を紡ぐよりは、一つの事件と、意識の変化ということをたっぷりと描いたということなのだと思う。ミミア姫を読む前の自分と、読んでからの自分は、多分同じではいられない。ーーそれがミミア姫を読んだということなのかもしれない。ある事件を描いていると書いたが、それはあるささやかなエピソードを描いたということとは違う。むしろ、おもいきり大きな世界を支える根本にかかわるものだ。「戦争」「大災厄」。叙述も、ある部分は意外すぎるくらいにあっさりと、だが、愛情や、ちゃんと生きることについては、過剰なまでに、それもゆったりと描かれていた。 


ミミア姫」という作品は、大災厄とそれを克服しようとして努力する全ての人々を励ますメッセージと宣言の書のように感じる。ミミアの世界に起きた戦渦は、既に起きてしまったことであるが、これから起こることでもある。


「あなたたちは愛されて生まれていますよ。自分たちにわかったことを大事にして、自信をもって進みなさい。」 これは、ミミアが父母からおくりだされる時にもらったメッセージでもある。


単行本買ったら改めてゆっくりと読みなおしたい。