官邸前抗議の一参加者として

原発連合は、けっして大量の人間を集めるのに適した運動として始まったとはいえない。抗議すべき省庁や東電を前に、マイクをにぎった普通の諸民が自分の言葉で抗議の声を上げる。それは聞こえる範囲の参加者に共鳴して強いものになっていく。量よりは質の抗議だと思う。
 だが、総理は、経産省は、文部省は、東電は、関電は、その声を声として聞かず、うるさい音としか扱わなかった。
 向こうが聞こうとしないのなら、数で圧力をかけよう、最初のあり方が変わるとしても、よいから。それが今も続いていると思う。そして、たくさんの人を抗議に参加させることに成功した。結果を出した。マスメディアにまったく無視されていたのをくつがえした。それに必要な判断もし、準備もし、それを参加者に受け入れさせる能力も示した。彼らは、諸民の期待に応えたのだ。
 膨大な人々の立ち上がりは、しかし、主催者の力量と工夫だけで実現したものではない
 その前に経産省前で先行して抗議のテントを張り、それを右翼や役所や警察の干渉に耐えて維持したことがあった。官邸前抗議のようなやり方は、そこを拠点にして始まっていた。抗議の形式の自由さという点では、それ以前に素人の乱サウンドデモによる成功があった。ツイッター上の何人かのキーパーソンの積極的な情報方向付け(たとえばソトン氏、ノイホイ氏)、岩上氏のユーストリームビデオ放送の敏感な動き、などがなければ、それはこのような姿をあらわさなかっただろう。山本太郎氏をはじめとする有名人の継続的な行動も大きかった。各地で行われたたくさんのデモと集会。
 だが、なんと言っても、5月5日に闘いの結果としてではなかったにせよ、原発がすべて止まり、そのまま再稼働しなければ脱原発するというのに、政府が無理やり、安全性の確認もいいかげんに大飯原発を再稼働しようとしたことに対する不安と怒りがその沢山の人の抗議の原因だったと思うのだ。
 これだけは許しちゃいけない。子供たちを犠牲にしてはならない。それはできるかもと思ったのだ。実際、野田総理が全く耳を傾けないというのは、十数万の人が官邸前に押しかけて抗議して、はじめてわかったことだ。
 そうかもしれないとは思いつつも、期待していたボクのような人間は落胆した。粛々と大飯は三号、そして次に四号と再稼働していった。泊や他の原発も再稼働に向けて進んでいる。抗議は激しいものだったが、それが再稼働を遅らせるとか止めるとか、何らかの結果をもたらしたようには見えない。
 人が沢山立上つたことが無とはいえない。マスメディアが反原発の抗議運動をとにかく流すようになった。だが、脱原発に向けては何も変わっていない。
 どうして、主催者は、結果が出ないのにこんなに平然とあいかわらず、数の追求を変えないのだろうか。確かに、再稼働したといっても、まだ大飯が2基にすぎない。まだ、止められるかもしれないと思うから、29日ピークが来るように仕掛けているのだろう。
 ボクも主催者を信頼して、29日まではその方向で参加するのだ。
 だが、数をふやすことの追求で、果たして本当に原発を止められるのか、不安は強まっている。
 坂本氏のように、一基や二基動いたからといって諦めることはない、というのはその通りだろうが、今のようなやり方のままで、数を追求することでそれもそも脱原発は実現するのだろうか。原発ゼロがくずれる危機感で集まった沢山の人が、再稼働してしまってそのまま増えていくとは思えない。
 今の政府がある限り、原発推進は変わらないのだから、解散して民意を問え! と、叫びを変える必要とかはないのか。
 主催者だって、毎週毎週イベントやっているような状況に疲れだってあるだろう。
 別に官邸前でやらなくてもいいんだというような撤退ぽい声が聞こえるような気がするのは私だけだろうか。
 粛々と再稼働がつづいている中で、「再稼働反対」といつまても叫んでいることは少なくとも私にはできないだろう。29日はキャンドル包囲やデモでよかったというのが偽らざる気持ちもある。
 それでも、何の結果も出なかったら、主催者は次の週の金曜もやると発表したけれど、同じようにやるのか。主催者はどう考えているのか。
 そもそも、主催者は自らの展望を参加者にきちんと説明していない。数を増やすという目的は聞いた。そうすれば変えられるかもしれないと私も思ったし、ここで言わなかったら後悔すると思ったからやった。そのためには数字を言い争う道具になってもよいと思った。沢山の人が集まったことが発表されれば素直に喜んだ。だが、こんなに人が集まったのに、何も変えられないということなら、なんなのだろう。主催者は少なくとも次の展望を語る義務がある。
 次の金曜は、前とは何か違う金曜にならなければおかしい。
 もちろん、国会大包囲で事態が動けばよい。そうなることをねがって参加するわけだから。だが、何も変わらないのではないか、という気持ちも否定出来ないのだ。
 主催者はどういう風にして原発再稼働が止められると思っているのか。彼らにも私のように不安と疑問をもつ人の声は届いていると思うのだが、なぜそれに応えないのだろうか。
 いずれにしても今月いっぱいは、主催者の方針でやる。私の心配がはずれで、結果が出ますように。